黒石寺は水沢市街から大東町方面に10キロほど進んだところにある。新幹線の高架をくぐって程なくしてこの看板が見えてくる。

黒石寺の入り口。石碑が多くあり地誌を知る手がかりともなりそうだったが住職さんとの約束の時間が迫っていたので詳しく見ることはしなかった。

小さな池がある。水は青く濁っていて夏には蓮の花が咲きそうである。

杉は直線的だが逞しい。入口からは本堂を臨むことができ、その入口は中尊寺金色堂をも思わせる。

奥の小径を登って住職さんのところへ行く。塀の向こう側にその住居があり、インターホンを鳴らすこととなる。御朱印は1枚300円である。



苔生した通路は岩手では珍しく思われる。きめ細かく苔が密生しており踏み跡に従って自然の道ができている。褐色の土塀も珍しく感じる。一つだけ存在する消火栓がとても良い。

こちらは国の重要文化財に指定されている仏像。御本尊の薬師如来像と慈覚大師坐像は撮影禁止なのでパンフレットを載せておく。国の重要文化財に指定されている仏像は上記のものと四天王立像である。いずれも一木造りで薬師如来像と四天王立像は平安初期、慈覚大師坐像は平安後期の作とみられる。この他にも県の重要文化財として月光日光菩薩像、十二神将立像が安置されている。こちらも平安後期の作とみられる。


かつて、薬師如来像は本堂に秘仏として、慈覚大師坐像は妙見堂に祀られていたらしいが現在は上の防火設備の整った蔵に移動され保存されている。鍵のかかった観音扉のすぐ向こうに薬師如来像はその逞しく大きい姿を見ることができる。住職さんが像や黒石寺について説明していただいた。その説明は特に幾多もの焼失の恐れを乗り越えて現存する仏像たちの苦難とも言うべきか、村民たちの努力の軌跡を強調するものだった。千年前の仏像が現存することは疑いようのない奇蹟でこの寺がいかに愛されてきたかを物語っている。



こちらは本堂。四天王像と十二神将立像、月光日光菩薩像が安置されている。こちらには相当な量の仏像があり歴史の重厚さに圧倒される。





中央のカーテンが引かれているところに嘗ては薬師如来像が秘仏として安置されていた。四天王立像の下半身は逞しく朴訥な岩手の人間を思わせる。黒石寺の伽藍は多いとは決して言えないがその箱庭のような美しさは容易に生み出せるものではない。土着の信仰と深く結びついているはずだがどこか洒脱で柔和な空気に包容されている。地域に根付く信仰心の象徴であるように思われる。


こちらは鐘楼である。他の参拝客が来たところで私は住職さんとお別れし、周囲を散策することにした。鐘楼の土塀の内側には庭園があるようだったがその雰囲気を感じ取るのみとした。

本堂の後ろにはこのような石段がある。

登ってゆくと妙見堂。ここは蘇民祭の際に使われるらしい。因みに蘇民祭とは牛頭天王の加護を受けた蘇民将来に与ろうとするものでここの祭りは全国有数の奇祭として知られている。蘇民信仰は全国に根付いているらしく茅の輪くぐりや注連縄がこれに由来するという説もあるらしい。日本に伝わったのは8世紀頃なので仏像が作られた頃伝播のしたのかも知れない。祭りの起源は不明だが江戸時代には既にあったようなので相当の長さを誇るものらしい。

ここの狛犬は非常に可愛い。

名残惜しいが去ることにする。非常に良い寺であった。

寺の前にはこのような茶屋があり小規模な竹林がある。

茶屋の下ではこのような小渓谷を楽しむことができる。淵には揺らめく群青があった。
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