昨年の8月、お盆の休みの際函館、道東を巡る旅行を強行した。 朝の4時過ぎ、自宅を出発。ちょうど親戚も来ていたので朝ご飯に海鮮を食べようと八戸へ向かったわけだ。IGRの始発で行くと函館着は昼過ぎになってしまうが陸奥湊駅を起点とすれば少し早い列車にも乗れ、朝ご飯も美味しいものを食べられるというわけだ。(生ものを食べたのは旅行中、八戸だけだった)

これは陸奥湊駅で撮ったものではないが(久慈駅)キハE130系に乗って八戸駅へ向かう。この旅では北海道・東日本パスを使ったので原則として普通列車にしか乗れない。八戸駅から青森駅までは青い森鉄道。次第に混で行く車内で惰眠を貪る。青森駅から新青森駅までは奥羽本線。津軽中里まで行く気にはなれなかった。

新青森からはH5系に乗車する。ここに限って特定特急券を購入すれば新幹線に乗車することができる。この写真は残念ながら新函館北斗で撮ったものだ。お盆休みは帰省客も多いようで座席には座れず、デッキの所にも私の他に3人ほどいた。青函トンネルを抜けるといよいよ本州を抜けたという感動がひしひしと胸にこみ上げてくるものである。木古内から先の区間では遠く函館山を臨むことができ霞がかった空にぼんやりと浮かぶ、バスティーユのような厳かさを持ってそこに佇んでいる。


新函館北斗駅に着いたらはこだてライナー733系電車に乗りかえて函館駅を目指す。新函館北斗から箱館までの短い区間を電化して意味があるのか疑問に思った。

函館駅に到着。頭端式のホームでかつては青函連絡船へ線路が続いていた。函館に着いたときには空が翳ってきており少々残念に思ったが函館に着いたという事実そのものが私には嬉しくてならなかった。函館は蒸し暑く、北海道といえどもその町並みや文化から北海道の自然を感じ取ることは難しかった。


摩周丸メモリアルシップへ来てみた。暫く座席に座り函館港を眺めここが盛岡ではないことを理解した。事実何の困難もなく函館に到着できたことが俄には信じがたい。遠くに駒ヶ岳が見えその先には途方もない大地が広がっていることもまた理解に苦しむことである。

摩周丸を出て市電に乗りに行く。観光客でごった返していて函館駅前、十字街などの主要な電停では一日乗車券を買い求める客で3分ほどと待っていることもよくあった。 谷地前駅まで向かうと辺りは血腥い匂いが立ちこめていた。谷地前駅へ向かう急坂の頃からその開け放たれた窓から匂いが立ちこめていた。何の匂いであったかは未だによく分からない。これから函館の観光の中心エリアへ向かってゆく。


はじめに訪れたのは浄水場。赤煉瓦造りの管理の建物もさることながら段々になった石垣が素晴らしい。石の不揃いさが戯けているようで可愛らしい。


お昼を食べたくなったので坂を下りて赤レンガ倉庫のエリアへやってきた。観光地のご多分に漏れずここもアジア系観光客(日本人とは言っていない)でごった返していた。その他はカップルや家族連れが主で独り者などこうした観光地では肩身の狭い思いをするものだと改めて思う。

高田屋嘉兵衛の記念館にも行ってみた。人は受付の方以外いない。古い倉庫に数本の光が差し込む中慎ましく展示を行っている。司馬遼太郎の菜の花の沖は冒頭部分を少し読んで以来読み進めていないので嘉兵衛についてよく分からなかったのだが幕末における北方の脅威の増大の中重要な役割を果たし、函館の発展に寄与したことがよく分かった。 昼食も食べたくなくなったので坂を登って観光を続行する。時折市電は重々しいジョイント音が鳴らし町の中の一風景として重要な役割を担っているように思った。

東本願寺とカトリック元町教会。石畳の道に所狭しと並ぶ車は見物だ。この近くにはハリトリス正教会もあり宗教観の対立などとは無縁の世界なんだと実感させられる。(日本以外でもこのようなことはあるのだろうか)

これは大三坂。隣の八幡坂のように海まで続く坂道ではないが充分に見応えがある。すべて石畳というのも風情があるものだ。

隣の八幡坂にも行ってみたが観光客が写真を撮っていたので素早く避ける必要があった。坂を向いて自撮りをしていたので八幡坂に来た意味が無いようにすら思える。 八幡坂から公会堂へ向かう道はアイスの商戦が激しく、私も割引券をもらってマンゴーアイスを食べその商法に乗せられてしまった。茶屋が三軒あって互いにけなし合っているのを見ると悲しくなるものだ。少し小高いところには函館第四高校があって吹奏楽部が課題曲のマーチを練習していた。楽器の音より先生の声の方が大きいな、など思いながら(道から100メートルくらいあったと思うが先生の声はよく聞こえてくるのである)既に終わってしまったコンクールのことなど久々に思い出した。

函館は坂が多く風景が開けているので写真を撮りやすい。これは元町教会だったかと思う。内部にはキリストの受難の道のりが克明に描かれていた。



これは旧相馬邸から撮った写真。相馬邸は函館の豪商で貴族院議員も務めた相馬哲平の旧宅。函館公会堂や旧イギリス領事館の程近くにある。内部はいかにも豪商の邸宅といった趣で和洋折衷、しかし欄間の装飾やゆがみガラスなどにさすがと思わせる意匠を見せるものだ。青森の太宰治生家の斜陽館とも似たものを感じるが、こちらの方がよほど洗練されている。展示には山岡鉄舟や勝海舟の書がおかれ蒔絵を施した重箱やガラス細工も見られる。二階建てながらも縁側からは函館湾が一望でき、庭もよく整備されている。蔵は改装され歴史館となっており松前藩とアイヌの交流や幕末の奉行所のこと、領事館のこと、箱館戦争のことが展示されている。ただフルベッキ群像写真を本物としているところは少々幻滅させられた。 他にも箱館公会堂や旧イギリス領事館へも向かったが写真が一切無いことには驚かされた。公会堂では多くの女性たちがドレスアップをしていて私の行くべき所ではないと思い、旧イギリス領事館ではあまりの人の多さに退館したいと願ったからかも知れない。旧英領事館には西洋人らしい人も多く、意外に思った。市民に愛されたというユースデン領事に関する展示があり見知らぬ土地で生き抜く同胞に心を打たれたのかも知れない。また、誰しも旅先で身近なものに出会うと嬉しくなるものである。(私も石川啄木関連のものを見つけたときははにかんでしまった。立侍岬には行ってないのだが)元町公園では祭りをやっていて立ち入りができなかった。


八月ともなると日光もだいぶ弱まり木漏れ日が美しく路面に映る。元町公園を境に人もだいぶ居なくなるので心を落ち着けて町歩きができる。とまれの標識が海まで並んでいて面白い。


これは恐らく旧ロシア領事館の辺りで撮ったものではないかと思う。この辺りだけ見ればその閑散とした様子などからも全く観光地という感じはしないだろう。幾筋もの雲の切れ目はそれぞれに光を湛えている。

これは外国人墓地の外壁である。

これが外国人墓地。外国に骨を埋めたものたちは望郷の念に駆られないのか疑問だ。墓石の並び方は自由度が高く、日本の墓地のように規則的に並んでいることはなく紫陽花などの生け垣が淡く色彩を添える。

この松の辺りで墓地に通じる小径は終わりを迎える。奥に少し映っているのはロシア料理屋。段丘の突端に建つ。そして目の前の海はいつまで眺めていても飽きることはない。船の往来はそれなりにあり、海鳥も日の光を受けて飛んでいる。 函館は異国情緒溢れながらも日本であることを強く感じるところが不思議である。あまりにも多くの文化が融合していて、しかしそこには日本であるという強い観念が流れている。

段丘の下に降りると家が建ち並ぶ港町と言った風情。家の切れ目から防波堤の外を覗くと海面の近さに驚かせられる。

この辺りには新撰組最後の地碑があった。何を持って最後とするかはよく分からないが比較的最近建てられた石碑からは歴史の重みが感じられない名所作りの一環であるようにも思える。

函館どつく前からは市電にて五稜郭まで移動する。元町に入るまでは閑散としていたが十字街からは満員であった。

五稜郭に到着。この少し前に函館ラーメンの店、あじさいで塩ラーメンを食べた。ここで食べたラーメンは旅の中で二番目に美味しい食べ物だったような気もする。(まともなものを食べていなかったと言うこと)


奉行所は発掘調査に基づいて再建されたらしく内部には係員が配置されていて施設を説明されていた。

ここは奉行との謁見に使われたという間。

内部は撮影が許可されているので自由に写真を撮ることができる。(とは言え風景の写真が好きな私などは殆ど撮影などしなかったが)


西日が強く松の影が強く地面に投影されている。赤い瓦の建物は夕日を受けるとワインレッド色が芳香を放つよう。


このように土塁の上を歩いてみたが誰とも出会わず良い散歩ができた。五稜郭タワーは函館に屹立する唯一の塔であるように思える。頂上部分の逆四角錐は自然の摂理を無視した構造物のようである。 この後宿泊場所であるドミトリーシルシルを経由して函館名物のラッキーピエロでハンバーガーを食べた。自分と同年代の高校生が連れ立って食べているのを見るとどうしようもない郷愁に駆られた。太陽が沈んだ頃、市電で函館駅へ向かい、翌日の旭川までの切符を取り、釧路名物ザンギ棒を食べながら湯の川温泉まで向かった。夜の市電は板張りの床の振動が心地よく昼間の喧噪とは無縁の世界であった。8時頃、湯の川温泉に着きそこで温泉に入る。入浴後、幻想的な明かりの並ぶ通りを進み市電に乗り松葉町で降り宿へと帰る。宿は外国人ばかりで自分がマイノリティーであるような錯覚も覚えた。10時頃には酒癖の悪い女性の宿泊者の狂瀾による警察沙汰もあったが幸運なことに絡まれることもなく、その日はゆっくりと就寝できた。
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